2019.08.30
理事・評議員合同幹部セミナー
日時:9月17日(水)12:00
場所:ロイヤルホールヨコハマ
講演:国際貨物輸送のトラブル解決処方
講師:行政書士 織田国際法務事務所
代表:織田成次氏
日本ではクレームと苦情処理は同義語となっているが、国際ビジネスでクレームとは、権利に基づく請求で、解決は100%金銭による。謝罪とか原状復旧などの解決手段の入り込む余地はない。この分野でのオピニオンリーダーとしてリーダーシップをとっているのは、荷主、保険会社、保険会社の弁護士、学者などで、セミナーや出版物を見ても運送人の立場から意見を述べているものは殆どないので、船社OBとして、運送人の立場から話をさせていただけることは、私としては大変有意義なことだと思っている。
運送人或いは船会社は船舶の堪航能力を確保・担保し、運送途上において相当な注意義務を果たすことが基本的な義務である。この部分が崩れてしまうと、運送人に認められている様々な免責がすべて消えてしまうということになる。
船舶の堪航能力を確保するということは、一流の船級協会に登録されている老朽化していない船舶であることが基本的な了解事項である。日本では日本海事協会のNK、イギリスではロイド船級協会LR、アメリカではアメリカ船級協会のABS、フランスではビューロー・ベリタスのBV、ドイツではドイツロイド船級協会のGLといった略号を持った船が一流の船級を持っていると認められている。
先日沈没事故を起こした韓国の客船は、韓国船級協会のKRの認証を受けていたそうだが、船級協会では船体、エンジン、艤装品などすべて検査をするので、十数基あった救命筏のうち一基しか開かなかったということになると、KRの信用自体が毀損されることになる。
運送人は、相当な注意義務を果たすというのは、手を抜かずきちんとすべき事をするということである。物流過程において切れ目、切れ目で記録を取っておくことが必要で、事故を発見したら損失を最小限にとどめるため最大限の努力をする。経費が掛かるから止めておこうといったことでは、後で免責を主張することができなくなる。
貨物事故の原因とその責任
①貨物の欠陥
貨物に欠陥がある場合には、事故の原因が、その貨物に欠陥であったことを運送人が立証する責任がある。
②運送人の契約義務違反
運送人が何らかの義務違反をしている場合、荷主は事故の通知を発するのみで、それ以上の義務はない。運送人は荷物をクリーンで受け取って証明書を発行しているため、デリバリーもクリーンでなければならない。これをクリーンBLの効力といい、その貨物に損傷があった場合は、運送人は自らの免責を立証しなければならない。運送人の操船及び航海技術に関する過失は免責される。これが国際船荷証券統一条約(ヘーグ・ルールス)の基本理念である。これ以前にはあまりに運送人、船会社に都合のいいBLの運送約款が横行したので、これに制限を加えるという意味で本船の操船・航海技術に関して免責される代わりに商業上の過失に対して免責を認めないという抑えの意味で作られたものである。
免責事由の一つである荒天遭遇については、昨年10月の台風26号により、東京湾内に於いてデッキ上のコンテナが崩れるという事故が発生した。港が閉鎖される中での出航のタイミングが最善であったか議論の余地がある。またコンテナ固定の強度が十分であったかも追及される可能性もあり、荒天遭遇だから免責されるとは限らない。
またコストセーブのため古く錆びつき穴が開いた部分にテープを張って応急補修しただけの整備不良のコンテナの使用や、屋根の角に穴が開いるコンテナで起きる水漏れ事故などは商業上の過失に該当し、免責されない。
③運送人の不法行為
・老朽船や十分に整備されていない船、その航路の航海に耐えられない船を使うなど船舶の堪航能力義務違反
・正当な理由のない別な港への寄り道
・在来船での顧客に無断でデッキ積み
以上のような運送人の不法行為は全面的に責任を負うが、その立証責任は荷主側にある。
④不可抗力
天災、暴動、騒擾などの不可抗力によって起こった事故は免責となるが、その立証責任は運送人側にある。
一梱包あたりの責任限度額
航海上の過失・火災により生じた損害については国際通貨基金(IMF)の決めた換算率SDRで
1梱包あたり666.67SDR、或いはキロあたり2SDRのいずれか高い方が補償限度額である。(ヘーグ・ヴィスビー・ルール4条5)。但し、ヴィスビー議定書を批准していない米国等への輸出入の貨物は、BL約款に「米国法を適用できる」と書いてあると、1梱包または1運送単位あたり(コンテナ1本満載でも)最大で500米ドルしか補償されないので、注意が必要である。
海難
昨年6月に商船三井の運行する大型コンテナ船がインド洋で破断して前部、後部に分離して漂流し両方とも数日後に沈没した。このような重大事故はレアケースだが、荒天遭遇時にデッキ上のコンテナが大波で破壊されたり、海中に転落する事故はしばしばある。自然が相手の海の上では、想像を超えた危険があり、船も貨物も常にリスクにさらされている。
共同海損(General Average)
船舶が事故に遭遇したときに発生する危険を回避する目的で、意図的、合理的に支出した費用や損害に、無事に残った部分を利害関係者間で案分し、損害を公平にする制度をいう。
例えば船が沖で火災になった場合、鎮火のため水を撒いた結果、沈没は免れた。その結果、一部の荷物は焼失し、一部は燃えなかったものの水を被り、一部は無事といった場合、焼失した貨物以外は共同海損となる。荷主は救われた自分の貨物の価値に応じて、救助費用や救助を成功させるために犠牲にされた一部の貨物等の損失の分担を求められる。
クレームの対象
運送人の賠償責任は、荷物の到着地における価格でCIFを上限としている。民法416条の通常損失、特別損失と似た考え方で、遺失利益やクレームに掛る経費など二次的損失は認められない。
クレーム処理の要諦
クレームに対しては、迅速に対応すべく船社サーベイヤーを派遣して検分し、輸送記録を収集すると同時に、荷主に対しては説明責任を果たす。そして損害賠償を支払うときは、交渉により支払い金額を減らし、和解合意書を取り交わす。
なるべく支出を減らすなどの企業防衛と顧客と会社の信用を失わないような友好的な和解を達成することが、クレーム処理のゴールである。
クレーム担当者は顧客、貨物保険会社と自社の営業マンからのプレッシャーの中で働いているが、会社から与えられた不可侵の裁量権を持っているので、それに基づいて誰にも影響されることなく仕事をする。海運、法律、貨物の知識が必要で、
マネージャーになると数万ドルの裁量権が与えられる。 損害金額の査定は論理的に処理されるが、最後の和解協議では、自分の見識と判断によって相手との合意に到達しなければならない。