2021.02.11
Q6. 覚書と言われ、効力が曖昧な感じがするLOI (Letter of Intent) とMOU(Memorandum of Understanding) について説明して下さい。
A6. 前項でご説明をしたMinutes of Meeting に続いて交渉過程で相手と交わすLOI(letter of intent とMOU(Memorandum of understanding)についてお話を致します。
一般に、LOIは予備的合意書、MOUは了解事項覚書、と呼ばれています。 LOI やMOU は交渉過程での確認事項を文書にして、双方の当事者が署名するのが一般的です。一回の契約で、複数回作成されることもあります。
これらの文書は、一方的に相手に送られるレーターと異なり、双方がサインしていることから、より契約書に近い効力があると認められることがあります。(我が国では、法的効力を認めた判例もあります。)
LOI やMOUを相手と取り交わしたとき、その法的拘束力の有無を論じる議論は、古くから枚挙に遑がありませんが、大切なのは書類のタイトルではなく、その内容と、サインした人の権限です。その書類ばかりでなく、その進行中のビジネス全体を俯瞰しないと判断できない場合もあります。それらの要素が、MOUとLOIの法的効力に大きな影響を与えると考え、そのリスクを自覚して、必要によってはそれ等を回避する文言を加える等の配慮をして作成することが肝要です。
LOIやMOUに法的効力が認められたとしても、これらの文書には通常の契約にはある一般的条項(例えば、準拠法、裁判管轄権等)が在りませんので、法的には不確実な環境にあると言わざるを得ません。
2021.02.11
Q5. Minutes of Meeting の効力はどうでしょうか?
A5. 契約が締結される前の協議でしばしば作成されるMinutes of Meeting についてご説明します。契約は通常、一度に総てが決まるわけではなく,何回も相手と協議をして細部を詰め、その細切れの合意の積み重ねを纏め上げで行きます。そのため、会議の席で出席者の中の誰か指名された人が議事録のメモ取りをし、会議の後 Minutes of Meetingをタイプすることになります。当事者のどちらが担当してもよいのですが、私が会社員の駆け出しの時代は、タイピストなどのマンパワーとタイプライラーを持つホーム・チームがこの役割を担うことが多かったように思います。昨今はノートパソコンが普及しているので、物理的な制約は最早やなくなったと考えられます。
形式は任意ですが、一般的にはタイトルをMinutes of Meeting とし、当事者双方の会社名、会議の題目、日時、場所、出席者のそれぞれの個人名、役職等を書いて、それから「The followings are the matter discussed and agreed.」などの前置きに続いて、合意されたこと、保留となったこと等を箇条書きにして、各行の右端に 「Action required by」の欄を設け、保留になっている件を調べて回答すべき立場にある当事者の社名と担当者名とその日限を記入します。ここに実務の担当者と日限を入れさせることは、大変有効なビジネス促進ツールとなります。しかしこれは諸刃の刃ですから、自分の側にも、ペンディング事項があれば、それをクリヤーにするプレッシャーがかかることは言うまでも在りません。最後に当事者双方の出席者全員、もしくは出席者中最上席の人がサインします。
Minutes of Meetingは議事録ですが、内容次第では、契約の一部と解釈される危険性がありますので、署名する方は、「Subject to top management approval」(会社の上席役員の承認を条件として) とか「For record only」(記録のみ)等の但し書きを付けて、Minutes of Meetingが目的(事実の記録)を逸脱し、契約書の一部として、1人歩きしないように注意することが肝要です。尚、Minutes of Meeting とConference Note は同義です。
2021.02.11
Q4.Agreement(合意)と契約(Contract) について解説して下さい。
A4. まずAgreement とContract の違いについてご説明します。我が国では相対する二人以上の当事者が合意することによって、権利義務の関係をつくりだす法律行為を契約ということになっています。一定の様式・手続きを踏むことを必須と定めためた例外(例えば婚姻) はあるにせよ、合意(agreement)と契約 (contract) は同義と考えてよいでしょう。殆どの場合、様式を問いません。 口約束でも契約は成立します。
しかし英米法の下では、Contractは Agreement のうち、法による強制が可能 (enforceable by law) で約因 (consideration)があり、且つ書面化されたものを指します。約因とはその合意を履行することによって、当事者相互に見返りがあることで、例えば、父親が息子に、「大学入試に受かったら自動車を買ってやる」と約束しても、それは一方的な父親から息子へ利益供与なので英米法ではContract と成り得えません。
尚、書類の名称は契約の効果に影響を及ぼしません。タイトルはAgreementでも実質はContractであるという事例は枚挙に暇がありません。
2021.02.11
Q3.英文契約書が難解なのは何故ですか?
A3. その理由の第一は、法律用語自体が難しいことです。日本でも法学部出身者以外の方に「物権」だ、「債権」 だといっても、おそらくお分かりにならないでしょう。同様に、アメリカ人でも、「Agreement」と「Contract」の違いを理 解している人は、そう多くはないと思います。
次に述べなくてはならないのは、法律英語の難しさです。それは各文章に構文が輻輳して長文が作られており、ストーリーの本筋と枝葉を見分けるために多少の習熟が必要なこと、ラテン語の多用と日本語に訳せない単語の存在です。
しばしば使用されるラテン語の単語には以下のようなものがあります。
pro rata (比例配分して)、bona fide(善意)、de facto (事実上の)、proviso (但し書き)、vice versa (逆も同様)、in lieu of (の代わりに)、per diem (1日当たり)、ad hoc (特別に)、proforma (仮の)、status quo (今まで通り)等々です。この中には皆様にお馴染みの単語もあると思います。
日本語に訳せない言葉の代表的のものは、しばしば標準的な契約書の1ページ目に出てくる「in consideration of the premises and covenants herein contained……」の中の「consideration」です。英和辞典には「考慮」と書いてありますが、法律英語では、これは「約因」という、英米法の契約理念の根幹をなす意味を持ちます。ところが、この言葉は日本語の英和辞典には載っていません。普通の日本語で、「見返り」と訳すと意味がつながります。
また、「instrument」は器具ではなく、証券とか証書のことです。契約書の前文に出てくる「WITHNESSETH 」は動詞「witness」の三人称単数型の古語です。ほかにもよく使用される古風な言葉として、WHEREAS (as と同じ意味で契約書前文の各文章の冒頭に使用されます。)、IN WITNESS WHEREOF (この証として) 等があります。
また、同じ意味の表現を2回反復する冗長さも面倒です。(例えば、This agreement made and entered by and between A and B……という具合です。)
ラテン語の多用と同義語の反復は、11世紀のイングランドに於けるノルマン・コンクエスト(侵略王ウィリアム;フランス名 Guillaume)に由来すると言われています。もともとのイングランド国民であるサクソン人の上に、フランス語を母国語とする王朝が支配者として君臨したため、法律英語は2つのルーツの異なる人々が相互に誤解なく理解しあえるように工夫された結果だそうです。因みに英国の今の王朝の祖は侵略王ウィリアムが即位したウィリアム1世で、この方は英語が話せなかった英国王だったといわれています。(詳しくは歴史家にお聞き下さい。)
他にも法律英語には、アメリカで一般の人から「legal jargon」と皮肉られる特殊な言葉や長文の言い回しが随所に出てきます。このように英文契約書作成にはある程度の専門知識と経験が必要で、未経験の方が作成することにはリスクが伴います。このように、英文契約書は確かに難しく、判読やドラフティングにはある程度の経験が必要だと思いますので、面倒なことは専門職におまかせください。
2021.02.11
Q2. 英文契約書作成で一番大事なことは何ですか?
A2. そのビジネスを実行している途中で、もめ事が起こってしまったとき、いかに 自分の会社に有利になるような問題 解決のプロセスを、契約書の中に織り込んでおくことです。 言い換えれば 可能な限り自社の権利を大きく、義務を小さくして、ビジネスリスクを許容範囲内にコントロール することです。